哲学教師の声

 大学一年生。入学式のその朝。
 わたしは、哲学の先生にはじめて会ったのでした。

 まだあまりお上手でないけれど、丁寧な日本語で自己紹介をされた先生。
 はにかみながら長い名前の由来を少し楽しく話されました。

 そのときの声を、その後長い間、ある時期は毎日のように聞き続けました。
 ささやくように控えめな声ですのに、教室ではマイクを使われなかったのが、いまでも不思議。(おかげで、不肖の弟子は、某大学の大教室でも勘違いしたのか、マイクなしでがんばってしまいました・・!!)
 耳をすますと、胸の底に落ちてくる優しい声。
 哲学は、哲学を語る生の声と、いまも不可分です・・。

 実は、先生の書き物は一冊を除いて、ほとんど読んでいません。先生も読むようにいわれない・・目の前にいる直弟子だもの?? レポートの細かい採点痕を拝見すると、ちいさな書き物にいかに厳しい方かよ〜くわかるのです。おかげで、後年講師となったわたしも毎月のレポートにコメントを書いて学生に返すという次第になりました。(受講生550人以上は、かなり大変でしたが)

 いろいろございましたが、先生が教えていらしたくらいの小部屋で、たまにはちいさな会ができたら素敵でしょうね。
 控えめな声を聞きあう、ふるさとのような空間を手渡しして・・。