蛤、浅蜊、しじみ

 たまたま見つけた、ととやさんの本。
 文章の間合いに、すっかりうれしくなってしまいました。

 おすそわけに、「六之膳」から、春先の貝のくだり・・。
 「蛤は、焼いてよし、吸物にして結構、さらに煮物も格別の味わいがありますが、もったいなくて煮物にはできません。煮るなら浅蜊がよろしい。
 私は、とくに浅蜊の剥き身を薄味で軽く煮たのが好きですが、小松菜が旬のときにいっしょに炊きますと、両方とも淡白な味ながら浅蜊の滋味がしみ出て、何ともいえぬ絶妙な味となります。一度お試しいただきたいと思います。」

 「この蜆も、春先が旬で、黒い殻には艶やかな光沢が増し、身もふっくらと盛りあがり、もちろん味は最高となります。とくに「寒蜆」と呼ばれる一月から二月にかけてのものは、すばらしい味わいをもたらしてくれます。」

 春の浅いころ、台所から貝を炊く気配がしてくるよう。
 抒情ではない、叙事ではない。
 ただ、心をこめて経験的、実証的に書かれたものと思うのです。