マリモ

 残暑のなか、自転車で走り回って、家に帰ると、マリモの置物が真っ正面にみえた。あら、自分の家なのに、いつもと違う光景??

 そうだった思い出した。数日前に判決コピーの厚い束をそのままにして窓を開けたら、一番上の一枚が風でふわりと飛んだ。性分らしく、判決文の上になにも置けない。
 紙の束の隣に緑色のマリモ。手のひらに収まるくらい小さくて軽い。この家に住み始めてすぐに、近くでみつけた。部屋のなかにいつもある、小さななつくりの緑がほしかった。ガラスの小皿にのせて数年。
 小皿にのせたまま束の上に置いた。飾りだったマリモが、ペーパーウェイトになった。ドアを開け、真正面に見えたのは、まるでマリモが坐す姿。「お帰り。これから先、この部屋でしっかりやりなさい」と諭されたよう。